IT開発業界では、技術の進歩と市場ニーズの変化が常に続いています。このような環境下で持続的な成長を実現するには、自社の強みを的確に把握し、それを最大限に活用することが鍵となります。しかし、日々の業務に追われる中で、自社の真の強みを見失っていることも少なくありません。 本記事では、開発会社が自社の強みを再発見し、それを効果的に活用して新規案件を獲得するための具体的な戦略について解説します。技術力、過去の実績、顧客との信頼関係など、すでに持っている資産を再評価し、それらを新たな案件獲得にどうつなげていくか。その方法と実践的なアプローチをお伝えしていきます。 それでは、自社の強みを再発見する方法から見ていきましょう。
開発会社の真の強みを見出すには、まず自社の技術スタックを丁寧に棚卸しすることから始めましょう。日々の業務に追われていると、自社が持つ技術力の全容を見失いがちです。しかし、この棚卸し作業こそが、他社との差別化につながる重要な一歩なのです。 まずは、社内で使用している言語やフレームワーク、開発ツールをリストアップしてみてください。そして、それぞれの技術について、チームメンバーの熟練度や実務での活用頻度を評価します。例えば、特定のクラウドプラットフォームに関する深い知見や、最新のAI技術の実装経験など、他社と差別化できる技術的な強みがないか探っていき、さらに、リストアップした技術について、チームメンバーの熟練度を評価してみましょう。
以下の表は、(IPA:情報処理推進機構)が提供する情報技術者レベルを定義した表です。このような表を利用したり自社独自の評価基準を設定するなどして、まずは、各技術の熟練度を可視化することが重要となります。
[自社独自の評価方法例(各技術の熟練度)]
レベル5.業界レベルでの専門家 レベル4.複雑なプロジェクトでリーダーシップを取れる レベル3.中規模プロジェクトで問題なく使用可能 レベル2.簡単なプロジェクトで使用可 レベル1.基本的な理解がある
技術スタックの棚卸しは、将来の方向性を考える上でも重要です。現在の強みを把握することで、今後どの技術分野に注力すべきか、どのようなスキルアップが必要かが明確になります。これは、中長期的な競争力強化にもつながる重要な洞察となります。
・技術スタックの棚卸しは、自社の強みを再発見し、他社との差別化を図る基盤となる
・チーム全体のスキルマップ作成により、個人とチームの強みが明確になる
・定期的な見直しにより、常に最新の自社の強みを把握し、効果的な案件獲得につながる
・技術スタックの棚卸しには、エンジニアだけでなく、プロジェクトマネージャーや営業担当者も巻き込むと、より多角的な視点が得られます ・棚卸しの結果を可視化し、全社で共有することで、チーム全体の意識向上につながります
技術スタックの棚卸しに続いて重要なのが、過去の成功事例を丁寧に分析することです。これは、自社の強みを客観的に把握し、将来の案件獲得につなげるための重要なステップです。
まずは、過去に手がけたプロジェクトの中から、特に成功したと感じるものをいくつかピックアップしてみましょう。 ここでいう「成功」とは、単に予算内で納期を守れたということだけではありません。顧客からの高い評価を得たプロジェクトや、技術的に困難な課題を解決できたケース、さらには自社のスキル向上につながったプロジェクトなども含めて考えるとよいでしょう。
成功案件のピックアップが完了したら、以下のような観点から分析を行います。
・プロジェクトの概要(規模、期間、チーム構成など) ・採用した技術や開発手法 ・直面した課題とその解決方法 ・顧客からのフィードバック ・プロジェクト完了後の波及効果(新規案件の獲得、技術力の向上など)
そうすることで、自社にどのような強みがあるかが浮かび上がってくるはずです。例えば「セキュリティ要件の厳しい業界での開発経験」や「複数の異なるレガシーシステムを統合し、シームレスな運用を実現した経験」など、他社との差別化につながる要素が見えてくるでしょう。
さらに、これらの成功事例を時系列で並べてみると、自社の成長の軌跡も見えてきます。初期のプロジェクトと最近のプロジェクトを比較することで、技術力の向上や、取り扱える案件の幅の広がりなどが可視化できるのです。 成功事例の分析は、営業活動にも直結します。具体的な実績をベースに自社の強みを語ることで、潜在顧客に対してより説得力のあるプレゼンテーションが可能になります。また、似たような課題を抱える企業へのアプローチの際にも、これらの事例は強力な武器となるでしょう。
・過去の成功事例を多角的に分析することで、自社の独自の強みが明確になる
・時系列での分析により、自社の成長の軌跡と将来の可能性が見えてくる
・成功事例は営業活動における強力な武器となるが、現在の市場環境との整合性も確認が必要
・成功事例の分析には、プロジェクトに直接関わっていなかったメンバーも参加させると、新たな気づきが得られることがあります
・成功事例をケーススタディとしてまとめ、社内で共有することで、組織全体の学びにつなげることができます
自社の強みを再発見したら、次はそれを活かしたマーケティング戦略を立てる段階です。その第一歩となるのが、ターゲット市場の絞り込みです。「すべての案件に対応できる」と考えがちですが、実際にはリソースも時間も限られています。自社の強みが最も活きる市場に焦点を当てることで、効率的かつ効果的な案件獲得が可能になるのです。
ターゲット市場の絞り込みには、まず自社の強みと市場ニーズのマッチングから始めましょう。例えば、IoTデバイスの開発に強みがある場合、製造業や農業、スマートホーム(※家庭内の電化製品や住宅設備をインターネットでつなぐこと)関連企業などがターゲットとして考えられます。あるいは、大規模データ処理の経験が豊富であれば、金融機関やEコマース企業などが有望な市場となるでしょう。
市場の特性を絞り込めたら課題を深堀りし、以下のような観点で分析を行いましょう。
・市場規模と成長率 ・競合状況 ・業界特有の規制やコンプライアンス要件 ・技術トレンドと将来の方向性 ・主要プレイヤーの動向
この分析を通じて、自社の強みがどのように市場のニーズや課題解決に貢献できるかが明確になってきます。例えば、「製造業のIoT化における、セキュアなデータ収集と分析基盤の構築」や「金融機関のDXを支える、レガシーシステムとクラウドの統合ソリューション」といった、具体的な価値提案が見えてくるでしょう。
ターゲット市場が絞り込めたら、その市場に特化したマーケティング施策を展開します。例えば、自社のブログやSNSで業界特化型のコンテンツを発信したり、オンラインでの小規模なウェビナーを開催したりすることから始めるのも良いでしょう。リソースや予算に余裕がある場合は、業界専門誌への寄稿や、特定の業界向けセミナーの開催、さらには業界団体への加盟なども検討できます。これらの活動を通じて、ターゲット市場により深く関わっていくことで、自社の存在感を徐々に高めていくことができます。 ただし、ターゲット市場の絞り込みは、他の市場を完全に無視することではありません。主力となる市場を定めつつも、技術の応用可能性や市場の変化に応じて、柔軟に対応できる姿勢を保つことが重要です。
ターゲット市場を絞り込んだら、次はその市場に向けて自社の強みを効果的に発信していく段階です。そこで力を発揮するのが、コンテンツマーケティングです。これは、価値ある情報を継続的に提供することで、潜在顧客との信頼関係を構築し、最終的に案件獲得につなげる手法です。 コンテンツマーケティングの効果を最大化するには、顧客の購買行動に沿ったアプローチが重要です。以下の「コンテンツマーケティングのファネル」を参考に、各段階に適したコンテンツを提供していきましょう。
このファネルに沿って、自社の技術力や業界知識を活かしたコンテンツを戦略的に配置していきます。例えば、認知段階では「IoTデバイスのセキュリティ対策最前線」といったブログ記事、検討段階では「金融システムにおけるブロックチェーン技術の活用事例」というホワイトペーパーを提供するといった具合です。 また、コンテンツの種類と目的を明確に整理することで、より効果的なマーケティング活動が可能になります。以下の表を参考に、各コンテンツの役割を意識しながら制作を進めていきましょう。
(◎:非常に効果的、○:効果的、△:やや効果的)
これらのコンテンツを通じて、潜在顧客は自社の技術力や問題解決能力を具体的に理解することができます。同時に、コンテンツの質と継続性によって、自社のブランド価値も高めていくことができるのです。 ただし、コンテンツマーケティングは即効性のある手法ではありません。息の長い取り組みが必要で、結果が出るまでに時間がかかることを理解しておく必要があります。また、単に情報を発信するだけでなく、そのコンテンツが適切なターゲットに届いているか、どのような反応があるかを常にモニタリングし、改善を重ねていくことが重要です。
・コンテンツマーケティングは、顧客の購買行動に沿った戦略的なアプローチが効果的
・多様なコンテンツ形式を活用し、各段階で適切な情報を提供することが重要
・長期的な視点で取り組み、常にコンテンツの効果を測定・改善していく姿勢が求められる
コンテンツマーケティングの効果が表れ始めると、自社のウェブサイトへの訪問者が増加し、問い合わせも徐々に増えてくるでしょう。ここからが、インバウンド営業の出番です。インバウンド営業とは、顧客からの問い合わせや資料請求に対して適切に対応し、案件獲得につなげていく手法です。 インバウンド営業の強化には、まず問い合わせへの迅速かつ丁寧な対応が不可欠です。規模の小さな企業だと、大手には真似できないきめ細やかな対応など強みをだせる部分です。例えば、問い合わせから24時間以内の返信を徹底したり、可能な限り担当者が直接電話をかけるなど、顧客との距離感を縮める工夫が効果的です。
次に重要なのが、問い合わせ内容の適切なヒヤリングです。 以下のような観点でヒアリングを進めていきましょう。
現状の課題 例)「現在のシステムや業務フローで、具体的にどのような問題が発生していますか?」
理想の状態 例)「その問題が解決されたら、どのような状態になることを期待されますか?」
過去の取り組み 例)「これまでに、その課題を解決するためにどのような取り組みをされましたか?」
予算と決定プロセス 例)「このプロジェクトの予算規模はどの程度でしょうか?また、最終的な決定者は誰になりますか?」
タイムライン 例)「いつまでに新しいシステムを導入したいとお考えですか?」
また、上手くヒヤリングで深堀りできない場合は、受発注サイトの登録やBizcollaなどヒヤリングフォームが搭載されたの無料掲載サイトの活用などもおすすめです。
以上のようなヒアリングを通じて顧客の本質的なニーズを掘り下げ、理解し、自社の強みとマッチングさせることで、的確な提案が可能になります。インバウンド営業は、問い合わせ受付から成約まで複数の段階を経ますが、各段階で顧客との信頼関係を深めることが重要です。
また、提案では、具体的な導入事例や数値を示すなど、顧客にとって分かりやすい内容を心がけましょう。また、営業チームとマーケティングチームの連携を強化し、顧客の声をコンテンツ改善やFAQ作成に活かすことで、インバウンド営業の質を継続的に向上させることができます。
・迅速かつ丁寧な初期対応が、インバウンド営業成功の鍵となる
・効果的なヒアリングを通じて顧客の本質的なニーズを理解し、的確な提案を行う
・営業とマーケティングの連携により、継続的な改善サイクルを確立する
・CRMツールを活用し、問い合わせから成約までのプロセスを可視化しましょう ・オンラインミーティングツールを効果的に使い、遠方の顧客とも密接なコミュニケーションを取りましょう ・成約に至らなかった案件も分析し、今後の改善につなげることが大切です
インバウンド営業だけでは十分な案件獲得が難しい場合、アウトバウンド営業も効果的に活用する必要があります。アウトバウンド営業とは、自社から積極的に見込み顧客にアプローチする手法です。ただし、従来の一方的な営業手法では効果が限られるため、自社の強みを活かした戦略的なアプローチが重要となります。 まず、ターゲット企業のリストアップから始めましょう。自社の強みが最も活きる業界や企業規模を絞り込み、そこに焦点を当てます。例えば、製造業向けのIoTソリューションに強みがあれば、中小製造業者をリストアップするといった具合です。
次に、各ターゲット企業について、可能な限り事前調査を行います。企業のウェブサイトやニュースリリース、業界紙などから、以下のような情報を収集します。
・事業内容と最近の動向
・経営課題や業界トレンド
・公開されている経営方針やITへの姿勢
この事前調査を基に、各企業に合わせたアプローチ方法を検討します。 例えば、以下のような手法が考えられます。
・カスタマイズした提案書や事例集の送付 ・業界特化型のセミナーや勉強会への招待 ・オンラインイベントやウェビナーへの参加勧誘
また、アウトバウンド営業では、タイミングも重要です。企業の決算期や、業界の繁忙期・閑散期を考慮し、最適なタイミングでアプローチすることで、成約率を高めることができます。
・ターゲット企業を絞り込み、事前調査を徹底することで効率的なアプローチが可能に
・業界や企業の特性に合わせたタイミングでアプローチすることで成約率を向上
・インバウンドとアウトバウンドを組み合わせたハイブリッド営業で効果を最大化
・CRMツールを活用し、ターゲット企業の情報や接触履歴を一元管理しましょう ・営業トークや提案内容は定期的に見直し、常に最新の事例や情報を盛り込むようにしましょう ・アウトバウンド営業で得た市場の声をマーケティングチームと共有し、コンテンツ戦略の改善に活かしましょう
新規案件獲得の有効な手段として、他社とのパートナーシップ構築があります。特に、自社の強みを補完する技術や、異なる顧客層にアプローチできる企業との連携は、ビジネスチャンスを大きく広げる可能性があります。 まず、自社の強みと弱みを客観的に分析し、どのような企業とパートナーシップを結ぶべきか検討しましょう。例えば、フロントエンド開発に強い会社であれば、バックエンド開発に強い会社との連携が考えられます。 パートナー企業の選定では、技術力や実績の確認はもちろん、企業文化や価値観の一致も重要です。また、相互の利益が明確であることも、長期的なパートナーシップを維持する上で欠かせません。 パートナーシップを結んだ後は、定期的な情報交換や共同マーケティングの実施など、関係性を深める取り組みが重要です。例えば、合同セミナーの開催や、互いの顧客への紹介など、Win-Winの関係を構築していきます。地域の商工会議所や業界団体のイベントに参加し、パートナー候補となる企業を見つけるのも良いでしょう。 ただし、パートナーシップには責任やリスクの分担も伴います。契約内容を明確にし、トラブル時の対応についても事前に合意しておくことが大切です。小規模なプロジェクトから始め、徐々に連携を深めていくのも効果的な方法です。
・自社の強みを補完するパートナー企業を選定する
・相互の利益を明確にし、Win-Winの関係を構築する
・リスク管理を含めた明確な契約を結ぶ
開発会社にとって、新規案件の獲得は成長の要ですが、その実現には自社の強みを正確に把握し、戦略的に活用することが不可欠です。本質的な差別化要因を見出し、それを効果的に市場に訴求することで、持続可能な競争優位性を構築できます。 しかし、強みの発見はスタートに過ぎません。真の成功は、その強みを顧客ニーズと巧みにマッチングさせ、価値ある提案として具現化する能力にあります。そのためには、ターゲット市場への深い理解と、適切なマーケティング戦略、そして効果的な営業アプローチが求められます。 さらに、自社の能力を補完するパートナーシップの構築も、新たな成長機会を生み出す重要な要素となります。このような多角的なアプローチにより、市場環境の変化にも柔軟に対応できる強靭な事業基盤を築くことができるでしょう。