ECサイト開発でよく起きる発注者とのトラブルと解決法

開発トラブル

発注者とのトラブル

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はじめに

ECサイトの構築は、オンラインビジネスの成功において極めて重要な要素です。しかし、要件によってはプロジェクトが複雑になり、依頼者と開発者の間でしばしばトラブルが発生することがあります。本記事では、ECサイト構築においてトラブルが起こりやすい箇所と、それらを未然に防ぐための効果的な対処法について詳しく解説します。

1. 要件定義の不明確さと契約関連のトラブル

ECサイトの構築は、ビジネスのデジタル化において重要な一歩です。しかし、このプロセスには多くの潜在的なトラブルが潜んでいます。特に、要件定義の不明確さと契約関連の問題は、プロジェクトの成功を大きく左右する要因となります。

1-1. 要件定義の不明確さがもたらす問題

ECサイト構築プロジェクトでまず直面する課題は、要件定義の不明確さです。依頼者が自社のニーズを正確に把握していなかったり、技術的な制約を理解していなかったりすることが多々あります。この問題は、プロジェクトの進行に伴って徐々に顕在化し、最終的には「思っていたものと違う」という事態を引き起こす可能性があります。

この問題に対処するためには、プロジェクト開始前に徹底的なヒアリングを行うことが重要です。依頼者の事業目標、ターゲット顧客、必要な機能、デザインの方向性などについて、具体的かつ詳細に聞き取りを行うことが必要です。また、ワイヤーフレームやプロトタイプを活用して、イメージの共有を図ることも効果的です。これにより、依頼者と開発者の間での認識の齟齬を最小限に抑えることができます。

さらに、アジャイル開発手法を採用することで、短いスプリントごとに成果物を確認・調整する機会を設けることができます。これにより、プロジェクトの進行中に要件の変更や追加が生じた場合でも、柔軟に対応することが可能となります。

【重要点】要件定義の不明確さによるトラブル

1.開発者側が推測に基づいて作業を進めざるを得なくなる

2.プロジェクトの方向性を誤らせる危険性が高まる

3.後々の仕様変更や追加機能の要求につながりやすい

4.予算や納期の超過を引き起こす原因となる

5.最終的に「思っていたものと違う」という事態を招く

ECサイト活用
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1-2.契約関連のトラブルとその対策

契約関連のトラブルは深刻な問題に発展する可能性があります。特に注意すべきは、契約書がない場合でも、明確な合意があれば契約が成立(お互いの意思表示がある場合など)する可能性があるという点です。したがって、すべてのやり取りを慎重に行い、記録に残すことが極めて重要となります。

契約関連のトラブルを防ぐためには、まず詳細な契約書を作成することが不可欠です。契約書には、作業範囲、納期、費用、修正対応期間、権利関係などを明確に記載する必要があります。特に、作業範囲の明確化は重要です。どこまでが契約に含まれる作業で、どこからが追加費用が発生する作業なのかを明確にしておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

また、修正対応期間やプロジェクト途中での仕様変更や追加機能の要求に対する対応方法も、あらかじめ契約書に明記する事が重要です。納品後、どの程度の期間まで無償で修正に応じるのか、それ以降はどのような条件で修正を行うのか。また、変更管理のプロセスや追加費用の算出方法などを明確にしておくことで、スムーズな対応が可能となり事前に合意しておくことで、トラブルを回避するできます。

その他、サイトの著作権や、使用されている画像、テキストなどの知的財産権の帰属についての権利関係についても明確にしておくことで、サイト完成後の運用や修正、再利用などに関するトラブルを未然に防ぐことができます。

[重要点]契約関連のトラブル注意点

1.詳細な契約書を作成し、作業範囲、納期、費用を明確に記載する

2.修正対応期間を契約書に明記し、無償対応の範囲を明確にする

3.著作権などの権利関係について、明確に定めておく

4.仕様変更や追加機能要求への対応方法を事前に契約書に盛り込む

5.すべてのやり取りを記録に残し、明確な合意を形成する

2. [コスト]と[納期]の認識の相違

ECサイトの構築プロジェクトにおいて、コストと納期に関する認識の相違は深刻なトラブルの原因となりうります。依頼者と開発者の間でこれらの要素に対する理解が異なると、プロジェクトの進行に支障をきたし、最悪の場合はプロジェクトの失敗につながる可能性があります。 以下、コストと納期に関する主要な問題とその対策について詳しく見ていきましょう。

2-1.[コスト]に関する認識相違

ECサイトの構築には、多くの時間と労力が必要です。しかし、依頼者側がその複雑さを十分に理解していないことがあり、非現実的な予算を期待してしまうことがあります。例えば、単純な商品販売サイトを想定していた依頼者が、実際には複雑な在庫管理システムや顧客管理機能が必要だと気づくケースがあります。このような認識の相違は、プロジェクトの途中でのスコープの変更や、品質の妥協につながる可能性があります。

一方、開発者側も正確な見積もりを出すことが難しい場合があります。ECサイトの構築には多くの不確定要素があり、初期段階で全ての作業を正確に予測することは困難です。例えば、外部システムとの連携や、セキュリティ対策の強化など、プロジェクトの進行に伴って明らかになる要件もあります。 このような問題を回避するためには、プロジェクトの初期段階で詳細な要件定義を行い、詳細なヒヤリングを徹底することが重要となります。 また、予備費や不測の事態への対応費用を見積もりに含めることで、予算の超過リスクを軽減したり、コストの内訳を明確に示し、各項目の必要性を説明することで、依頼者の理解を深めるなど、事前の認識の擦り合わせが非常に重要です。

【重要点】コストの認識を擦り合わせておく

1.予備費や不測の事態への対応費用を見積もりに含める

2.コストの内訳を明確に示し、各項目の必要性を説明する

3.追加機能や変更要求に対する価格設定を事前に決めておく

2-2. [納期]に関する認識相違

納期に関しても、依頼者と開発者の間で認識の相違が生じることがあります。依頼者側が開発にかかる時間を過小評価していたり、開発者側が作業量を誤って見積もったりすることで、非現実的な納期が設定されてしまうことがあります。 例えば、依頼者が「似たようなサイトを1ヶ月で作ったという話を聞いた」と言って短期間での完成を要求するケースがあります。しかし、実際には各ECサイトの要件は大きく異なり、単純な比較はできません。また、開発者側も競合他社に負けじと無理な納期を提示してしまうことがあります。

このような納期の認識相違は、品質の低下や、開発者側の過度な負担につながる可能性があります。極端な場合、納期を守るために機能を削減したり、十分なテストを行わずにリリースしたりすることで、サイトの品質や安全性が犠牲になることもあります。

これらの問題が起こらないよう、プロジェクトの各フェーズに必要な時間を詳細に見積もり、マイルストーンを設定して進捗を定期的に確認することが重要です。また、バッファ時間を設けて不測の事態に対応できるようにすることも有効です。さらに、依頼者側の承認プロセスや意思決定に要する時間も考慮に入れる必要があります。

【重要点】納期に関する対応策

1.バッファ時間を設けて、不測の事態に対応できるようにする

2.依頼者側の承認プロセスや意思決定に要する時間も考慮する

3.納期に影響を与える可能性のあるリスクを特定し、対策を立てる

2-3.仕様変更や追加要求への対応

プロジェクト進行中の仕様変更や追加機能の要求が発生することは珍しくありません。しかし、これらの変更要求がコストと納期に与える影響を適切に管理しないと、深刻なトラブルにつながる可能性があります。 例えば、プロジェクトの後半になって「競合他社のサイトを参考に、このような機能も追加したい」という要求が出されることがあります。または、開発の途中で業界の動向が変化し、新たな決済システムへの対応が必要になるケースもあります。これらの変更は、単に開発工数を増やすだけでなく、既に完成している部分の修正が必要になる場合もあり、コストと納期に大きな影響を与えます。 このような問題に対処するためには、変更管理プロセスを確立し、すべての変更要求を文書化することが重要です。変更に伴う契約の修正や追加契約を適切に行うことで、法的なリスクを回避することができます。変更履歴を管理し、プロジェクトの全体像を把握することも、スムーズなプロジェクト進行には欠かせません。

【重要点】仕様変更や追加要求への対応

✔ 変更管理プロセスを確立し、すべての変更要求を文書化する

✔ 変更がコストと納期に与える影響を評価し、依頼者に明確に伝える

✔ 変更に伴う契約の修正や追加契約を適切に行う

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3.セキュリティとコンプライアンスへの認識不足

3-1.セキュリティへの認識不足

ECサイトは、顧客の個人情報や決済情報を扱うため、高度なセキュリティ対策が不可欠です。しかし、依頼者側がセキュリティの重要性を十分に理解していないケースが少なくありません。 例えば、セキュリティ対策にはコストがかかるため、「そこまでの対策は必要ない」と考える依頼者も少なくありません。 しかし、セキュリティ侵害が発生した場合の損害(信用失墜、損害賠償、事業停止など)は、対策コストを大きく上回る可能性があります。 このような問題を回避するためには、プロジェクトの初期段階でセキュリティの重要性を十分に説明し、具体的なリスクシナリオを提示することが重要です。また、業界標準のセキュリティ対策を実装することを前提とし、その必要性とコストについて理解を得る必要があります。

[重要点]セキュリティの認識を共有

✔ プロジェクト初期段階でセキュリティの重要性を十分に説明する

✔ 業界標準のセキュリティ対策の実装を前提とする

✔ セキュリティ対策のコストと効果を明確に示す

3-2.コンプライアンスへの認識不足

ECサイトの運営には、様々な法規制やガイドラインの遵守が求められます。例えば、個人情報保護法、特定商取引法、景品表示法などが関係します。 しかし、これらの規制やガイドラインの存在自体を知らない、あるいはその重要性を理解していない依頼者も少なくありません。「法律は後から対応すればいい」という考えや、「他社サイトを参考にすれば問題ない」という安易な姿勢が見られることもあります。 例えば、「注文確認画面で配送料を表示しない」というケースもありますが、これは特定商取引法に抵触する恐れがあります。 このような問題に対処するためには、プロジェクトの初期段階で関連する法規制やガイドラインを特定し、それらへの対応を計画に組み込むことが重要です。また、法務専門家のアドバイスを受けることも有効です。コンプライアンス対応の重要性と、違反した場合のリスクについて、依頼者の理解を深める必要があります。

[重要点]コンプライアンスの認識共有と対策

✔ 関連する法規制やガイドラインを特定し、対応を計画に組み込む

✔ コンプライアンス対応の重要性と違反リスクを依頼者に説明する

✔ 法改正や新たな規制に対応できる柔軟なシステム設計を行う

4.デザインの主観的解釈

ECサイトの構築において、デザインは非常に重要な要素です。しかし、デザインの評価は主観的になりがちで、依頼者と開発者の間で意見の相違が生じやすい領域です。この主観的な解釈の違いがプロジェクトの遅延や、最悪の場合は失敗につながることもあります。以下、デザインに関する主要な問題とその対策について詳しく見ていきましょう。

4-1.デザイン要件の不明確さ

ECサイトのデザインプロセスで最初に直面する課題は、デザイン要件の不明確さです。依頼者が「かっこいいデザイン」や「使いやすいデザイン」といった抽象的な要望を出すことがありますが、これらの言葉の解釈は人によって大きく異なります。 例えば、依頼者が「シンプルで洗練されたデザイン」を求めているとします。しかし、依頼者の頭の中にあるイメージと、デザイナーが解釈するシンプルさや洗練さは異なる可能性が高いです。結果として、提出されたデザイン案が依頼者の期待とかけ離れたものになってしまうことがあります。

このような問題を回避するためには、プロジェクトの初期段階で具体的なデザイン要件を明確化することが重要です。依頼者のブランドガイドラインや、好みのウェブサイトの例を参考にしながら、具体的なデザイン要素(色使い、フォント、レイアウトなど)について合意を形成する必要があります。

【重要点】デザイン要件の合意形成

✔ プロジェクト初期段階で具体的なデザイン要件を明確化する

✔ 好みのウェブサイトの具体例を収集し、参考にする

✔ 色使い、フォント、レイアウトなどの具体的なデザイン要素について合意を形成する

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4-2.デザインの機能性とユーザビリティ

ECサイトのデザインは見た目の美しさだけでなく、使いやすさや機能性も重要です。しかし、依頼者が見た目の美しさにこだわるあまり、ユーザビリティを損なうデザインを要求することがあります。 例えば、依頼者が「大きな画像をたくさん使って、華やかなデザインにしたい」と要望するケースがあります。しかし、大量の高解像度画像は、ページの読み込み速度を遅くし、モバイルユーザーの利用を妨げる可能性があります。 このような問題に対処するためには、デザインの美しさと機能性のバランスの重要性を説明し、ユーザーのニーズを中心に考えることの大切さを強調する必要があります。また、A/Bテストなどの客観的なデータを活用し、デザインの効果を数値で示すことも有効です。

Point

✔ デザインの美しさと機能性のバランスの重要性を説明する

✔ A/Bテストなどの客観的なデータを活用してデザインの効果を示す

✔ パフォーマンス(ページ読み込み速度など)を考慮したデザイン決定を行う

4-3.デザインの変更と修正プロセス

デザインプロセスにおいて、変更や修正は避けられません。しかし、このプロセスが適切に管理されないと、プロジェクトの遅延や予算超過につながる可能性があります。 例えば、依頼者が「気分が変わったので、全体的なカラーテーマを変更したい」と、プロジェクトの後半で大幅な変更を要求することがあります。または、「もう少し動きのあるデザインにしたい」と、静的なデザインから動的なデザインへの変更を求めるケースもあります。これらの変更は、単にデザインの修正だけでなく、既に実装済みの機能にも影響を与える可能性があります。 このような問題に対処するためには、デザインの承認プロセスを明確化し、大幅な変更にはコストと時間がかかることを事前に説明しておくことが重要です。また、デザインの段階的な承認(ワイヤーフレーム→モックアップ→プロトタイプ)を行うことで、早い段階での修正を可能にし、後半での大幅な変更を避けることができます。

Point

✔ デザインの承認プロセスを明確化し、文書化する

✔ デザインの段階的な承認(ワイヤーフレーム→モックアップ→プロトタイプ)を実施する

✔ 大幅な変更にかかるコストと時間を事前に説明する

✔ 変更管理プロセスを確立し、すべての変更要求を文書化する

✔ デザイン変更が機能面に与える影響を評価し、依頼者に説明する

まとめ

総括

ECサイトの構築プロジェクトは、ビジネスのデジタル化において重要ですが、多くの課題を抱えており、上記で述べたような、要件定義と契約、コストと納期、セキュリティとコンプライアンス、そしてデザインなどが含まれます。 これらの課題に対処するためには、プロジェクト開始前の徹底的なヒアリング、詳細な契約書と見積もりの作成、変更管理プロセスの確立が重要です。また、セキュリティとコンプライアンスの重要性を早期に説明し、具体的な対策を提示することが必要です。 共通する重要な対策として、緊密なコミュニケーションの維持、文書化の徹底、段階的なアプローチの採用が挙げられます。さらに、専門家の知見を活用し、プロジェクト完了後も継続的な学習と改善を行うことが大切です。 これらの点に注意を払うことで、多くの問題を未然に防ぎ、ECサイト構築プロジェクトを成功裏に完遂できる可能性が高まります。